テーマ | 心房細動という病とその周辺病 |
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講 師 | 大阪医科大学 循環器内科 講師 伊藤 隆英 先生 |
開催日時 | 2019年(R1年)9月18日 |
先日、大阪ハートクラブ主催の市民講座において、「心房細動という病とその周辺病」という題目で講演する機会をいただきました。 不整脈の一種である心房細動は、芸能人や元スポーツ選手の罹患と啓発活動などを通して、一般市民にも浸透してきていますが、一方で、「その周辺病」つまり「心房細動の原因と、心房細動にかかった場合の行く末」についての議論は乏しいように思います(スライド①)。 いかなる病気にも「原因」があり、いったん病気にかかってしまうとその後の様態はおおむねその病気に則した「結果」としてあらわれます。ある病気にまつわる原因と結果について深く理解することは、これからますます重要視されるであろう「健康寿命」の延長にもつながるかもしれません。 心房細動はほかの病気と同じく加齢とともに増え、高血圧や糖尿病などいわゆるcommon disease(よくある病気)をお持ちの方に起こりやすいとされています(スライド②③)。また、日中に耐えがたい眠気を引き起こす睡眠時無呼吸症候群も高血圧と深く関係しており、睡眠中の無呼吸発作は心房細動のトリガー(誘因)になるといわれています(スライド④⑤)。 心房細動の予防は生活習慣の見直しとcommon diseaseをきっちりと制御することにつきます(スライド⑥)。とはいっても、これら一連の病気は自覚症状がないことが少なくなく(スライド⑦)、長く付き合わなければならないこともあって、ついコントロールが甘くなりがちです。 心房細動の重大な合併症として脳梗塞と心不全があげられます(スライド①)。これらはときに致命的となり(心不全の予後はがんと変わりません)(スライド⑧)、そうでなくても寝たきり状態や認知症を招くなど社会的にも経済的にも、もちろん精神的にもつらい状況が「結果」として生じます(スライド⑨)。 もちろん、こうしたことにならぬよう、現在はそれなりの治療手段は揃っています。心房細動の治療は、心臓のリズムを正常にもどす「リズムコントロール」と、血をサラサラにする薬をのんで脳梗塞を予防する「抗凝固療法」の二段構えになっています。治療技術の進歩(カテーテルアブレーション)と創薬の発展(DOACs:ドアック)により、心房細動の患者さんは大きな恩恵を受けています(スライド⑩⑪)。 心房はとてもデリケートです。ポンプ機能をつかさどる左心室の壁は厚く頑丈にできていますが(約10㎜)、左心房は薄く(約3㎜)、左心室のように肥大できないので、高い血圧にさらされるとたちまち組織が変質し、心房細動の素地が出来上がってしまいます(スライド⑤)。そしていったん変質した左心房の組織は「それなりの治療」でもなかなか元に戻りません。 「予防は治療に勝る」(スライド⑫) 「言うは易く行うは難し」ともいいますが(?)、本講演がそして話が難しかったと思われた方にはこの拙稿が、皆様の健康増進の一助となれば望外の喜びと存じます。