テーマ | 虚血性心疾患 ~心臓の血管の病気~ |
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講 師 | 大阪医科大学 内科学Ⅲ 診療准教授 宗宮 浩一 先生 |
開催日時 | 2012年(H24年)11月26日 |
心臓は心筋という筋肉でできていて、心筋の収縮によって全身に血液を送り出します。心臓が正常に働くためには、心筋に十分な血液が流れる必要があります。心筋に血液を流すための血管が心臓の表面をとりまく冠動脈で、心臓から出る大動脈の根元に入り口があります。心臓が全身に送り出した血液の一部は冠動脈を流れ、心臓自身のために使われているのです。
冠動脈が狭くなり、心筋の血液需要に比べて供給が不足して起こる病気を虚血性心疾患といいます。心臓が虚血状態になると、胸が絞めつけられるような痛みが起こります。症状の程度は様々ですが、どことはいえない広い範囲に痛みを感じるのが特徴です。虚血状態が長く続くと、心臓のポンプ機能が低下して、息苦しくなるなどの心不全の症状があらわれたり、重症になると、血圧が下がってショック状態になります。また、心室細動という命にかかわる不整脈を起こすことがあります。
虚血性心疾患の代表が狭心症と心筋梗塞です。虚血性心疾患の多くは動脈硬化が原因で起こります。かつて虚血性心疾患は日本では少なかったのですが、近年、食生活の欧米化などの影響で増加しています。
狭心症は心筋での血液の需要と供給のバランスが一時的にくずれて起こります。運動などで全身に送る血液を普段より増やす必要がある時には、心臓は冠動脈を流れる血液を増やしてそれに対応しようとします。ところが冠動脈が狭くなっていると心筋への血液供給を増やすことができず、心筋が血液不足となって痛みが起こります。症状は一時的で、多くは数分間、長くても10分以内に治まります。
冠動脈が完全に詰まり、その先の心筋が壊死してしまうのが急性心筋梗塞です。血管の内側にたまったコレステロールのかたまり(プラーク)に亀裂が入ると、そこに血液のかたまり(血栓)ができます。血栓で血管が完全に詰まってしまうと、その先の心筋に血液が流れなくなり、心筋の細胞が死んでしまいます。急性心筋梗塞の死亡率は40%で、そのうち70%は1~2時間以内に亡くなってしまう緊急を要する病気です。冷や汗や吐き気を伴う激しい胸痛が20分以上続く場合は急性心筋梗塞の可能性があります。
狭心症のうち症状に変化が出てきたものを不安定狭心症とよびます。今までよりも軽い運動で発作が起こるようになったり、じっとしていても発作が起こったり、発作の頻度が増えたり、症状が続く時間が長くなった場合です。不安定狭心症は急性心筋梗塞と同じように冠動脈の血栓が原因です。血栓により冠動脈の狭窄が急に進行するため狭心症の症状が悪化するのです。不安定狭心症は急性心筋梗塞の一歩手前の状態で、すぐに治療を開始する必要があります。
虚血性心疾患の治療は、①薬物治療、②カテーテル治療、③冠動脈バイパス手術の3種類があります。冠動脈の狭窄の程度が強い場合や、薬の効果か?不十分な場合には、カテーテル治療を行います。足や腕の動脈からカテーテルを入れて、カテーテルの先端に付いた風船(ハ?ルーン)を膨らませて血管の狭窄部分を広け?ます。ただし、ハ?ルーンで拡張しただけでは、再ひ?血管か?狭くなることか?あるので、その予防のためステントという網目の筒状の器具を留置することが多くなっています。左冠動脈の根元が狭くなっていたり、狭窄が何か所もあるために、カテーテル治療が困難な場合や、再発をくりかえす場合には、冠動脈バイパス手術が行われます。冠動脈バイパス手術は冠動脈の狭窄または閉塞部位の先に自分の正常な別の血管を縫い付けて、新たな血液の通り道を作る手術です。
虚血性心疾患にかかったら早期に適切な治療を受ける必要があるのはもちろんですが、予防はそれ以上に大切です。糖尿病、高血圧症、脂質異常症などの動脈硬化を促進する生活習慣病があれば、その治療をしっかり行わなければなりません。また、生活習慣病の主要な原因である肥満の是正も必要です。タバコは動脈硬化を進行させるため禁煙も必須です。