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市民健康講座

第290回市民健康講座 (H24年1月11日)

テーマ慢性腎臓病と心腎連関
講 師近畿大学医学部 腎臓内科 谷山 佳弘先生
開催日時2012年(H24年)1月11日

 近年、慢性腎臓病(CKD)が心血管疾患の危険因子であることが明らかとされ、心腎連関という概念が定着してきています。すなわち、腎臓に何らかの異常をもつ患者さんは、単に腎機能が低下して透析に至るというリスクの他に、心血管疾患(心筋梗塞、心不全や脳卒中)を発症するリスクも高いということになります。一方でCKDと心血管疾患には共通する悪化因子が想定されており、早期発見・早期治療介入により、腎機能低下のみならず心血管疾患の発症を抑制しうることもわかってきています。
  CKDでは高度な腎機能低下をきたさない限り、また心血管疾患を発症しない限り、自覚症状のない期間が年余にわたることも珍しくありません。したがって、早期発見のためには、自覚症状がなくとも、まずは検査を受けていただくことが重要です。
  CKDを診断するに当たっては、腎臓病の種類を特定することは必ずしも重視されていません。これは、腎臓を専門分野としない医師でも施行可能である尿検査、血液検査などを用いて、腎疾患を早期発見することに重点がおかれているからです。CKD診断では蛋白尿の存在が重要ですが、蛋白尿は簡便な試験紙法にて調べられます。また、腎機能は糸球体濾過量(GFR)にて評価されますが、こちらについても通常の採血で測定可能な血清クレアチニン値と、年齢および性別より計算される推定GFR(eGFR)を用いることが推奨されています。もちろん、尿蛋白が大量に出現するような場合や、短期間に急速に腎機能が低下するような場合には、腎臓専門医による診断および治療が必要になることもあります。地域医療を担う医療機関(医院、診療所など)と高度専門医療を行う病院との適切な役割分担と連携(病診連携)も、CKD診療においては重要なポイントとなります。
  CKDでは高血圧、糖尿病、あるいは脂質異常症といった生活習慣病が原因となって、腎臓に問題が生じたものが患者さんの大多数を占めます。したがって、CKDの治療においては、生活習慣を是正し、薬物療法などによって血圧、血糖あるいはコレステロールなどの脂質を十分にコントロールすることが必要です。言い換えれば、高血圧や糖尿病、脂質異常症に対する治療が、そのままCKDの治療ということになります。
  生活習慣の是正では、規則正しい生活や適度な運動、禁煙などが大切です。また、食事療法においては減塩やカロリー制限が重要となります。腎疾患および心血管疾患の発症や進行には、アンジオテンシンⅡというホルモンが深く関わっています。アンジオテンシンⅡは蛋白尿の出現、血圧上昇、動脈硬化あるいは臓器の線維化と行った様々な作用をもっており、この作用を抑えることがCKDの進行を抑制し、ひいては心腎連関を断ち切ることにつながります。したがって、CKDに対する薬物治療では、このホルモンの作用を抑える効果があるアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬が主に投与されます。
  自覚症状がなく潜在しているCKDを早期発見するためには、健診などを積極的に利用することをお勧めします。また、高血圧、糖尿病、あるいは脂質異常症といった生活習慣病の治療を受けられている方は、定期的な検尿を受けるようにして下さい。

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