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市民健康講座

第288回市民健康講座 (H23年9月2日)

テーマ心不全ってどんな病気?
講 師大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 助教 坂田泰史 先生
開催日時2011年(H23年)9月2日

 急速な高齢化社会と共に、心不全患者は増加の一途をたどっている。2005 年に出された米国における心不全患者数の予測では、年度を追うごとに増加をしているが、特に2020 年を境に急速に増加すると予想されている。日本でも同様のあるいはさらなる増加が見込まれており、高齢化社会において癌とともに、今後ますます重要となる病態となることは間違いない。
  心不全とは、心臓が機能を果たせず、体に症状が現れた状態である。心臓は、全身に血液を送り出すポンプの働きをしている。そのポンプ機能が徐々に低下し、体に様々な症状をもたらす。心不全の症状は大きく分けて、2つのタイプに分れる。一つは、体に血液が滞ってしまう「うっ血」による症状である。これは、夜間、労作時の呼吸困難感、体重の増加、むくみ、夜間の尿量の増加などとして現れる。もう一つは、体が要求する血液を送り出せないために起こる「灌流不全」による症状である。これは、手足が冷たい感じ、全身倦怠感、日中の尿量・回数の低下というような症状で現れる。坂道や階段の息切れはこの症状でもある。
  心不全診断のための検査には、いろいろな方法がある。基本は、問診、聴診などの理学的検査、胸部レントゲン写真、そして血液検査の中でもBNP 検査である。これらは、心不全が存在しているか、さらにどのくらいの重症度かを判定するのに不可欠である。また、なぜ心不全になったのか、その原因を探る検査も重要である。代表的な検査は、心エコー検査である。心エコー検査では、心機能診断のみならず、弁膜症や先天性疾患の存在など基礎疾患の有無を検出するのに役立つ。また、心不全の最も重要な基礎疾患である冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の診断には、負荷心電図、核医学検査など間接的、そして冠動脈造影や心臓CT による直接的診断法がある。脈が乱れることも、心不全の原因となり得ることより心電図も重要な検査手段である。心電図の波形から心筋梗塞の有無を推定できるのみならず,リズムをみることによって、心房細動など慢性心不全の原因や増悪因子になりうる病態を見つけることができる。
  心不全の治療は、大きく薬物治療と非薬物治療に分れる。薬物治療は、大きく分けて3つのパターンを持つ。坂道を登る馬車にたとえた場合、1)坂道を登っている馬に鞭を打ち、悪循環を断ち切る方法(強心薬)、2)馬の速度を落としてやり、休ませることにより元気を取り戻させる方法(心筋保護薬:β遮断薬、ACE 阻害薬、アンジオテンシン受容体遮断薬、抗アルドステロン薬)、3)馬車の荷物を減らしてやる方法(利尿薬、血管拡張薬)をうまく組み合わせて治療する。非薬物療法として、運動療法、サウナ(和温)療法、酸素療法などの理学的療法、さらにペースメーカを用いた治療などがあり、これもうまく組み合わせていく。
  心不全の増悪因子を取り除くことも、重要である。特に、塩分制限、禁煙、十分な休養と睡眠、ストレスの回避なども薬物療法と同様またはそれ以上に大きな効果を及ぼす場合がある。