2023年5月 ホームぺージをリニューアル致しました。

市民健康講座

第351回-市民健康講座(2023年7月10日)

テーマ心アミロイドーシスはどんな病気? - トランスサイレチン型心アミロイドーシスの新たな知見 -
講 師大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 特任助教
世良 英子 先生
開催日時2023年7月10日(月)14:00~15:30

 本邦の人口統計によれば、心不全による死亡は増加傾向であり、悪性新生物(癌)について死亡原因の第2位になっています。その背景としては、社会の高齢化率が徐々に上昇していること、高齢者における心不全患者さんの増加があります。心不全は、『心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気』です。心臓が悪くなる原因は様々です。今回の講演では、最近、新しい治療薬の開発や身体への負担が少ない検査での診断が可能となり、診断に至る患者さんの数が増加しているアミロイドーシスという疾患についてご紹介しました。

 アミロイドーシスとは、「アミロイド」という異常なたんぱく質の塊が臓器や組織に沈着してからだの中にたまっていく病気の総称です。「アミロイド」のもとになるタンパク質には現在30種類以上あることが知られています。もとになるタンパク質が何かによって、「アミロイド」がたまりやすい臓器や組織、あらわれやすい症状が異なります。病気の原因である「アミロイド」がどのようなタンパク質から作られるのかを診断することで、経過の予測ができ、治療法も決まってきます。

 アミロイドーシスの症状は多彩です。脊柱管狭窄症や手根管症候群の症状や、手足のしびれや感覚障害などの末梢神経障害で発症する方もいます。心アミロイドーシスは、心臓の壁が分厚くなる心肥大や、不整脈や伝導障害などの心電図異常、心臓のポンプ機能の低下による心不全症状の出現を契機に診断されます。心臓にアミロイドーシスをきたす病型で一番多いのはトランスサイレチン型アミロイドーシスであり2番目に免疫グロブリン性アミロイドーシスです。トランスサイレチンとは肝臓で産生されビタミンの運搬に関わるタンパク質です。トランスサイレチンタンパクの遺伝子に変異を

 伴う遺伝性と変異を伴わない野生型に大きく分類されます。野生型は、以前は老人性と呼ばれており加齢とともに頻度が増加する疾患で高齢者の心不全の原因として重要視されています。近年、骨シンチグラフィーで心筋へのアミロイド沈着を診断できるようになり、外来での検査が可能となりました。また、アミロイドの産生を抑える治療薬も開発され、アミロイド沈着による機能障害の進行を抑制し寿命の延長が期待できるようになっています。

 治療の開始が遅れないよう早期診断が重要です。心不全の初期のサインに注意しましょう。「疲れやすくなった」「歩くと息がきれる」といった症状を運動不足や老化として放置せず、医師に相談しましょう。手根管症候群や脊柱管狭窄症の合併が多い疾患です。既往歴として必ず医師に伝えましょう。心電図異常は早期診断の大事な手がかりです。定期的な健康診断を受け、異常があれば血液検査や心臓超音波などの検査で、アミロイドーシスも含め心不全の原因となる基礎疾患が隠れていないか評価してもらうようにしましょう。

  • 第351回-市民健康講座(2023年7月10日)_1
  • 第351回-市民健康講座(2023年7月10日)_2