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市民健康講座

第321市民健康講座 (H29年3月13日)

テーマ心臓はピッチャー、腎臓はキャッチャー、両者のふかーい関係
講 師大阪大学大学院医学系研究科腎疾患統合医療学
 寄附講座准教授  濱野 高行 先生
開催日時2017年(H29年)3月13日

 心臓が悪いと腎臓も悪いことがしばしばです。狭心症や心筋梗塞を起こす患者では、動脈硬化や高血圧を介して腎臓の細い血管が傷害を受ける結果、腎硬化症の頻度が高いです。腎硬化症とは、動脈硬化が原因で徐々に腎臓が萎縮していく病気で、現在日本でも高齢化に伴い徐々に透析導入原因としても増えつつあります。透析導入時には10cmほどの大きさの腎臓が半分程度まで小さくなります。また慢性心不全の患者では、心臓が腎臓に血液を十分に送れず、腎機能が落ちやすい状態となります。もともと腎臓には心拍出量の20%の血液が流れていますが、それが急性心不全になるとこの割合が10%以下に減ることもまれではありません。またそもそも心不全ですから心拍出量自体も減るわけです。このような状態では、腎臓に血液が送り込まれてこないわけですから、尿を作ることもできず、腎機能が悪化していきます。いわば、血流を送り出す心臓はボールを投げるピッチャーのようなもので、血流をおくってもらう腎臓はボールを投げてもらうキャッチャーに例えられます。ボールを投げてもらわないとキャッチャーは仕事をできないように、腎臓は血液を心臓から送ってもらわないと仕事ができないわけです。さらには心不全で使う利尿薬の副作用で腎機能が悪くなることもあります。逆に腎臓が悪いと摂取した水や塩が尿に出せなくなって、簡単に浮腫が出て、心不全になることもあります。よって腎臓が悪いと心不全になりやすくなります。いわば、心臓と腎臓は持ちつ持たれつの関係であるとも言えます。
 近年、慢性腎臓病をCKDと呼ぶようになりました。CKDの重症度は、蛋白尿の程度と糸球体濾過量の2つの因子で決定されます。後者を正確に評価するには、イヌリンという物質を注射してその排泄率を評価しないといけませんが非常に面倒な検査ですので、実用上はほとんど使われていません。代わりに血清クレアチニン(Cr)を測定することで糸球体濾過量を予測します。これをeGFR(推算糸球体濾過量)と呼びます。正常は90 mL/min/1.73m2以上です。3ヶ月以上にわたって、蛋白尿や血尿が出るか、eGFR<60 mL/min/1.73m2の場合にCKDと診断されます。加齢だけで腎機能は毎年eGFRで1 mL/min/1.73m2程度低下していきますので、高齢になるとCKDと診断される可能性は高くなります。
 次に腎臓が悪くなるとどうなるか、どういう食事が好ましいかに関しての話です。腎臓が悪くなると貧血の時に造血を促すホルモンであるエリスロポイエチンが腎臓から出なくなります。その結果、腎性貧血と呼ばれる貧血になります。これは鉄が欠乏して起こる鉄欠乏性貧血とは違うので、治療の中心はエリスロポイエチンの皮下注射をすることで治療します。また腎機能が悪いとナトリウムを尿に出しづらくなるので、塩が身体に貯まりやすくなります。その結果、血圧が上昇してきます。このように食塩の摂取量を少し増やすだけで血圧が上がりやすくなる状態のことを塩分感受性高血圧と言います。このような状態では塩分を減らす必要があります。よって塩以外の味付けとして、我々は腎不全の患者さんには酢やケチャップや塩以外の香辛料(コショウ、七味、辛子)などによる味付けを勧めています。低塩食を続けると、1ヶ月を超すと舌が徐々にその味付けになれてくるものです。その他にも腎不全では、高カリウム血症を来したり、骨がボロボロになったりする腎性骨症にもなります。このような状態になるとカリウムやリンを制限する必要があります。
 腎臓の治療では血圧を下げることが中心になりますが、糖尿病や蛋白尿があれば上の血圧(収縮期血圧)は130 mmHg未満、できれば125 mmHg未満が好ましいと言われています。糖尿病も蛋白尿もなければ140 mmHg未満で結構です。一方で70歳以上の高齢者では120 mmHg未満にまでする必要はありません。ここまで下げるとむしろ急性腎不全になりやすくなり、頚の動脈が細い場合などは脳梗塞になるリスクが上がるからです。
 腎不全が末期まで進行すると、腎移植、血液透析、腹膜透析の3つの選択肢がありますが、そうならないように食事、とくに塩分制限が必要です。皆さんも是非一度は病院に行ったら、腎臓が悪くないか、尿蛋白の検査をしてみてください。

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