テーマ | 切らずに治す心臓・大血管手術「低侵襲手術」 |
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講 師 | 大阪大学大学院医学系研究科 低侵襲循環器医療学教授 倉谷 徹 先生 |
開催日時 | 2013年(H25年)7月3日 |
この四半世紀にわたり、心臓血管外科手術成績は、手術手技およびデバイスの改善により極めて向上した。しかし、高齢化、術前合併症により通常手術では、その手術の恩恵を受けることの出来ない患者が多く存在する。そのような患者は、過大な手術侵襲のため手術不可能と判断され、保存的治療を続ける他ないのが現状であり、その状況から低侵襲治療が待ち望まれていた。
我々は、1993年より大動脈疾患に対して、ステントグラフトを用いたカテーテル的ステントグラフト内挿術を胸部大動脈瘤に臨床導入した。20年が経過した今、企業製造の多くのデバイスが登場、さらにはデバイス自体も改良を重ね極めて良好な製品となり、胸部及び腹部大動脈疾患において第一選択術式になりつつある。今後、通常手術が最も困難で且つステントグラフト手術においても、手術が困難であった弓部大動脈病変に対しても開胸を必要としないデバイスが開発されつつあり、数年後には全世界に導入されることになるであろう。
また、弁膜症においても、2002年より大動脈弁狭窄症に対して、経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI) がヨーロッパ中心に導入され、日本では、大阪大学が第一例目を施行し、その後今年までに約100例の症例を施行し、欧米で術後30日死亡が5%以上であると言われているこの術式で、1.9%の良好な成績を得ることができ、この低侵襲治療、TAVIにおいても基幹病院としての役割を果たしている。今後、次世代デバイスの導入が待たれるところである。
低侵襲治療は、今後さらに安全で先端的な治療法として進歩を遂げることが肝要である。そのため、あらゆる疾患において低侵襲治療開発を望む医療従事者が、ともにその企画を持ち寄り、研究および臨床できる環境が不可欠である。これまで内科、外科という範疇にとらわれていた医学環境ではなく、低侵襲治療という総括的な環境が必要となる。その状況で我々の低侵襲循環器医療学講座は、新しい医療環境を提示、発展できるものと考えている。
心臓血管分野における低侵襲治療は、今後新しい枠組みでさらなる進歩を遂げると思われる。このような変化に富んだ医療環境において、現状では、どのような低侵襲治療が行われているのかを、一般の方々に発信できるこのような公開講座は極めて意義深いものと考えられる。今後もこのようなチャンスを頂き、最新の低侵襲治療の現状を伝えて聞きたいと思う。