テーマ | これだけは知っておきたい心臓弁膜症の基礎知識 |
---|---|
講 師 | 大阪市立総合医療センター 循環器内科 副部長 松村嘉起先生 |
開催日時 | 令和6年9月20日(金) |
我が国は超高齢社会となり、心不全患者の数は増加の一途を辿り、社会問題となっている。心不全の原因疾患として、冠動脈疾患に次いで多いのが心臓弁膜症であるが、今回はこの心臓弁膜症について概説した。
心臓は血液を循環させるポンプの役割を担い、心臓内には4つの部屋(心腔)があり、その出口にはそれぞれ弁がある。これらは大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、三尖弁と呼ばれ、心臓弁膜症はこれらの弁の機能に異常が生じる病気の総称である。弁膜症には、弁が十分に開かない「狭窄」と、弁が閉じなくなる「逆流(閉鎖不全)」があり、両方が同時にみられる「狭窄兼逆流」というケースも存在する。
弁膜症の症状には、息切れ、動悸、胸痛が含まれるが、他にも失神やむくみが見られることがある。また、無症状でも健診で偶然発見されることがある。息切れは加齢に伴う体力の低下と区別が難しいため、周囲の人との比較が重要である。動悸については、自己検脈によって調べることができる。左手の人差し指と中指で右手首の親指側を触れ、30秒間の脈拍数を数え、その数を2倍する。
検査においては、心臓超音波検査(心エコー)が重要である。心エコーでは、どの弁に狭窄や逆流があるか、それがどの程度重症かを評価する。重症度は軽症、中等症、重症の3段階に分類され、これに応じて心エコーによるフォローアップの頻度が異なる。また、心機能など、治療方針に関連する評価も行われる。
治療方針は、経過観察、外科的治療(開心術)、カテーテル手術の中から選択される。一般的には、重症で症状がある場合に治療を行い、それ以外の場合は経過観察が継続される。しかし、重症で心機能が低下している場合や形成術が可能と考えられる場合は、無症状でも治療が行われることがある。治療の適応は、弁膜症の種類によっても異なる。開心術は胸骨正中切開が一般的であるが、低侵襲心臓手術が選択されることもある。大動脈弁狭窄では、開心術またはカテーテル(経皮的大動脈弁留置術)による弁置換が行われる。僧帽弁逆流の場合、形成術が第一選択であるが、弁が高度に損傷している場合には弁置換が検討される。開心術が適さない場合には、経皮的僧帽弁接合不全修復術が選択肢となる。
治療方針の決定は、「Heart team会議」と呼ばれる循環器内科医、心臓血管外科医、麻酔科医、看護師などが参加するチームで、患者の全身状態を総合的に判断したうえで話し合いが行われる。