テーマ | 心不全!どうする? 心不全治療の現在と最新治療のお話 |
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講 師 | 大阪大学大学院医学系研究科 心臓血管外科学 教授 宮川 繁 先生 |
開催日時 | 2022年(R4年)1月14日 |
現在、わが国において死因の第2位である心不全とはどんな病気か、治療法は何があるのか、新しい治療である再生医療を含め、ご説明いたします。 心不全患者数について説明します。我が国の人口は減少する一方、心不全患者は増え続け2030年には、130万人に達すると言われています。130万人は神戸市の皆さんが全員心不全になったことに匹敵し、大変多いことがわかります。 心臓は4つの部屋、即ち右心房、右心室、左心房、左室で構成されます。全身からかえってきた酸素の少ない血液は右心房に流れ込み、右室にいき、次に肺で酸素を蓄え、左心房にいき、最終的には左室から全身に送られます。心不全は、ポンプの機能を果たす左心室の機能が弱く、全身に血液が送れない状況を指します。
心不全の症状は、急激な体重増加、坂道・階段での息切れ、食欲不振、下肢のむくみ、夜間の呼吸困難や咳が特徴的です。 現在行われている心不全治療は、心不全の程度が軽く、もとに戻る可能性がある心不全であれば、お薬による治療、またはペースメーカーによる治療が行われますが、こういった治療を行っても効果がない心不全が多いのが現状です。また、心不全が重症化すると、補助人工心臓や心臓移植が行われます。補助人工心臓におきましては、細菌が感染すると毎日高熱が出たり、コストが高いといった問題点があります。また、心臓移植においては、日本では年間70例程度と大変なドナー不足の状態で、心臓移植を待ちながら亡くなる患者さんが後をたちません。 再生医療の始まりは、バカンティ―教授らが提唱した概念から始まります。彼らは、人間の耳の形を特殊な材料でつくり、それをネズミの背中に移植し、最終、特殊な材料は溶解し、ネズミの細胞・組織で作られた人間の耳の形をした構造物がネズミの背中に出来上がることを示しました。 心不全の再生医療を可能にした技術は、東京女子医大の岡野先生が開発された細胞シート技術です。患者さんから小さな細胞をとってきて、これを培養皿の上で培養し、細胞の数を増やし、1枚の細胞のシートを作成します。温度を落とすと、小さな細胞の集合体である細胞シートが剥がれてきて、 細胞をシート状に回収することができます。私たちはこの細胞シートを実際の治療に用いています。 細胞シートを作る際に用いているのは、筋芽細胞という細胞です。この細胞は足の筋肉が事故等で 壊れると、この筋芽細胞が増え、足の筋肉に変身し、壊れた筋肉を治すといった役割のある細胞です。この細胞を先程の培養皿でシート状にし、心臓の表面に移植するという方法です。このシートから 心臓を癒す薬が長時間放出され、心臓の血行が良くなることが様々な動物を用いた実験でわかっています。
山中先生はヒトの細胞(血液等)からiPS細胞を作成され、この細胞からヒトの臓器を構成するような、例えば心筋細胞、軟骨細胞等を作成する技術を確立されました。現在、脊椎損傷、心不全、網膜の病気、パーキンソン病等の病気でこの細胞が臨床応用されています。大阪大学では、iPS細胞から心筋細胞のシートを作成し、心不全の患者さんに移植するような治療を世界で初めて開始しました。