テーマ | 感冒の様な症状で発症する怖い大型血管炎(高安動脈炎と巨細胞性動脈炎)のお話 |
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講 師 | 国立循環器病研究センター研究所血管生理学部 中岡 良和 先生 |
開催日時 | 2017年(H29年)11月20日 |
血管に自己免疫的な機序で炎症を来す血管炎症候群は、現在汎用されるCHCC2012分類では血管のサイズに基づいて、大型血管炎、中型血管炎、小型血管炎の3つに分類されます。このうち、大型血管炎は主に高安動脈炎と巨細胞性動脈炎の2つの病気からなります。身体で一番大きな動脈である大動脈とその第1分枝動脈が原因不明の炎症により狭窄・閉塞、拡張する リモデリングを起こす病気で、これらの2疾患は厚生労働省の指定難病となっています。厚労省の難病患者の登録データでは、日本に高安動脈炎は約6,000名、巨細胞性動脈炎は約200名(2015年に難病として認定され、2015年の新規発症データのみ)いるとされます。
高安動脈炎の発症は10代後半から20代前半の女性に多く見られるのに対して、巨細胞性動脈炎は50歳以上の高齢者に発症します。高安動脈炎と巨細胞性動脈炎はともに、最初に出現する症状が発熱・頭痛・頚部痛・倦怠感などであることが多く、感冒に類似するために、発症初期に診断をすることが難しいとされます。診断に難渋して治療の開始が遅れるか、治療が 長期間適切になされないと、大動脈瘤や大動脈弁閉鎖不全症などを合併して心臓血管外科での大きな手術を必要とする状態になり得るため、怖い病気だと言えます。
診断は画像検査でなされ、主に造影CT、造影MRI、頚動脈エコー、FDG-PET(保険未承認)を用います。また、採血で炎症反応のC反応タンパク(CRP)や赤血球沈降速度(ESR)の高値を示すことも診断の補助に使用されます。診断をしたら、治療は両疾患とも先ず副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)で行います。ステロイドを高用量使用すると、殆どの症例で炎症は おさまり、自覚症状も軽快します。しかし、ステロイドを減量する過程で病勢が再度上昇する(再燃する)ことが半数以上の症例で見られて、治療が難しく原因が不明であることから難病に指定されています。
ステロイド治療に反応しない症例では免疫抑制剤を併用してステロイドの減量を進めます。ステロイド漸減に有効な免疫抑制剤はこれまではっきりしていませんでしたが、最近、炎症性サイトカインinterleukin-6の受容体に対する抗体製剤であるトシリズマブを用いた治験が両疾患に対して行われた結果、2017年8月25日に高安動脈炎と巨細胞性動脈炎にトシリズマブが保険承認されました。今後は、ステロイド治療抵抗性を示す上記2疾患にはトシリズマブ 治療が適用されて、患者さんの予後が改善するのではないかと期待されます。