テーマ | ご存知ですか、「心不全パンデミック」 |
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講 師 | 大阪大学大学院医学系研究科 重症心不全内科治療学寄附講座 准教授 兼 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 診療局長 彦惣 俊吾 先生 |
開催日時 | 2017年(H29年)9月8日 |
心不全患者数はこの25年間で倍増しており「心不全パンデミック」状態にある。患者数増加の要因である、人口の高齢化および心不全原因疾患の死亡率低下の傾向は今後も続くことから、パンデミック状態が続くことが予想される。その状況に対抗するためには、一般の方々が心不全について十分に知識を持ち、早期発見、早期治療、適切な管理に努めることが非常に重要である。今回の市民健康講座では、その観点から、心不全の病態、症状、診断、検査、治療、今後の展開などについて概説した。
心不全は様々な強い症状を有し、しかも増悪緩解を繰り返しながら徐々に病状が悪化する進行性の疾患であって、突然死が多く、生命予後は悪性腫瘍並みかそれ以上に不良である重篤な疾患である。心不全の進行度合いは、初期のリスクのみの段階から難治性心不全に到るまでに分けられるが、難治性心不全への進行を回避するためには、初期の心不全リスクの段階からのリスク管理や、心不全発症早期からの診断および治療介入が重要である。
心不全の診断は、問診、診察、レントゲン、心電図、血液検査、心エコーなどで行われる。治療は、ACE阻害剤やβブロッカーなどの薬物治療や心室再同期療法などの医療機器を用いた治療、重症例には心臓移植がある。心不全状態の改善を図るとともに原因疾患に対する治療をおこなって症状と予後の改善を図る。
最近は、心臓の収縮力が保たれた心不全(HFpEF)が急増しており大きな問題となっている。HFpEFは、心臓の拡張障害、血管の硬化、心拍調節異常など様々な異常が関与する複雑な病態であり、その詳細はいまだ不明である。心不全の全体のうちの約30%から半数がHFpEFであるといわれており、予後は収縮能の低下した心不全とほぼ同等というデータが多いが、予後改善につながる治療法は全く見つかっておらず、今後の課題である。
最近、外来通院中の心不全悪化の早期発見や在宅での心不全加療を可能にするための遠隔医療や在宅医療が注目されている。前者は、IT技術の進歩に伴い様々な機器の開発が進められており、どのような指標を用いるのが良いのかも含めて研究開発がすすめられている。後者は人材育成が重要であるが、高い関心を持つ医師が増えており、今後普及が見込まれる。また、医療機器の進歩を反映して、補助人工心臓の治療成績も非常に向上しており、心臓移植を前提としないdestination therapyも欧米では進んでいて、わが国でもその是非について議論が行われている。これらの様々な新たな取り組みが、「心不全パンデミック」を克服するために重要であろうと思われる。