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市民健康講座

第320市民健康講座 (H29年1月18日)

テーマ糖尿病患者さんが心血管病にならないためにく
講 師関西電力病院循環器内科主任部長・心臓血管センター長
 石井 克尚 先 
開催日時2017年(H29年)1月18日

【初めに】 現在、日本人の死因の第一位は悪性新生物(ガン)で、その次に多いのは心臓病です。2014年の 人口動態統計によると、全国で1年間に約20万人の人が心臓病で命を落としています。 実は、こと糖尿病患者さんにいたっては最大の死亡要因は心臓病なのです。糖尿病の人は、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患になるリスクが高いく、正常な人の約3倍の危険性であることがわかっています。血糖値が高い状態が続くと、血管が傷つきやすくなって、動脈硬化が促進されるためです。
【糖尿病のメカニズムと3大合併症】 一般に、糖尿病は1型糖尿病と2型糖尿病、さらに妊娠した女性に起こる妊娠糖尿病や、ほかの病気にともなって起こる二次性糖尿病があります。2型糖尿病は、インスリンの作用不足(インスリンの分泌不足や作用障害)によって血糖値が高くなるもので、日本人の糖尿病の大部分を占めます。糖尿病の自覚症状は1)口喝・多飲、2)多尿、3)全身倦怠感などがよく知られています。そして自覚症状があらわれたときには、気がつかないうちにすでに合併症が進行している場合も少なくありません。合併症は、ひとたび症状があらわれると治療が困難です。根本的に治せないことが多く、その場合は、それ以上病気や症状を進行させないことが治療の目的になります。合併症には3大細小血管障害として1)神経障害、2)網膜症、3)腎症があり、3大大血管障害として1)虚血性心疾患、2)脳血管障害、3)閉塞性下肢動脈硬化症があります。そのなかでも糖尿病患者さんに合併した冠動脈疾患の特徴は無痛性心筋虚血が多い、多枝病変である、病変が高度で石灰化が多く瀰漫性であることが特徴として挙げられます。糖尿病患者さんでは胸痛などの症状がなくても高血圧や高脂血症、喫煙など冠動脈疾患のリスクが高い場合は頸動脈エコーで内膜中膜複合体(IMT)の肥厚や、運動負荷心エコー法を行い、冠動脈疾患が疑われ場合は積極的に心臓カテーテル検査を行う必要があります。最近では冠動脈CT(MDCT)が冠動脈の有意狭窄の検出だけでなく冠動脈プラークやその性状の検出が非侵襲的に行えるようになっています。治療して1枝病変なら薬物療法か冠動脈インターベンション(PCI)、2枝病変ならPCIか冠動脈バイパス術(CABG)、3枝病変または左主幹部病変なら主にCABGが選択されます。閉塞性下肢動脈硬化症の病期診断にはFontaine分類(I度:無症状、II度:間欠性跛行、III度:安静時疼痛、IV度:足潰瘍、壊疽)が汎用されています。足関節収縮期圧/上腕収縮期圧(ABI)を測定し、ABIが0.9以下の場合は本症の可能性が示唆されます。軽症ならば薬物療法が有効ですが、重症の場合は経皮経管的血管形成術(PTA)や外科的血管再建術が選択されます。
【糖尿病治療の基本(食事と運動)】 糖尿病の治療は、とくに2型糖尿病治療の場合、食事療法と運動療法を中心とした生活習慣の改善が基本になります。高血圧、高脂血症でも食事の見直しと運動が非常に有効な治療法になります。血糖コントロールの状態をみるのがHbA1cです。糖尿病と診断されたら、およその目安としてHbA1cが定期検査で7%未満に収まっていることを目標とします。HbA1cが7.5%~8%を超えると「問題あり」で、将来合併症を発症する可能性が高まります。食事療法は、まずその人の適正な体重を計算し、それに基づいて1日あたりの適正摂取エネルギー(カロリー)を決めることからはじまります。 適正エネルギー摂取量=標準体重×身体活動度 運動療法は、筋肉の量を維持しながら、インスリンの効きを悪くする内臓脂肪を減らすことが重要です。血糖値を下げるという意味では食後1時間から1時間半あたりの血糖がピークとなる時間帯に20~25分歩けば最も良いとされています。また筋肉の維持という意味では筋力トレーニングを取り入れるとより効果的です。
【最後に】 平成19年の厚生労働省の調査では、日本の糖尿病患者の推定数は890万人で、その後の国民栄養調査から推定すると、1000万人を超えると考えられます。わが国では現在、70才を超えている人のじつに4割以上が、糖代謝異常(糖尿病とその予備軍)です。ごく大ざっぱに言えば、2人に 1人ぐらいは、生きているあいだに糖尿病になりうるということです。 しかし糖尿病になっても、すぐにQOL(生活の質)が落ちるということはありません。むしろ軽いうちからきちんと治療に取り組むことで、合併症だけでなく、ほかの生活習慣病も遠ざけることができます。糖尿病患者さんは、健康な人より少し血糖値が高いということだけでていねいな生活指導をしてもらえ、まるで保険の利く健康クラブに入っているようなものです。しかしその逆に、糖の心配などせず食べたいだけ食べ、体もぜんぜん動かさずにいたらどうでしょう。たとえ糖尿病にはならなかったとしても、脳梗塞や心臓病などほかの病気にかかる可能性が高まってしまいます。 腹八分目で、よく歩く。糖尿病の人が治療として取り組んでいるライフスタイルは、健康な人が 行っても健康寿命が延びる最高の健康習慣なのです。今回の講演をお聞きになった皆さんそろって一病息災で「健康長寿の模範ランナー」になってくれることを願っています。 

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