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市民健康講座

第314市民健康講座 (H28年1月18日)

テーマ心不全のいま
講 師兵庫医科大学 内科学循環器内科
 准教授 真野 敏昭 先生
開催日時2016年(H28年)1月18日

 我が国における心不全患者は増加しており、その理由として高齢になると心不全罹患率が著明に増加することがあげられる。また死亡数がやや減少傾向にある急性心筋梗塞と対照的に年々心不全の死亡数は増加しており、社会的な大きな問題となっている。心不全患者さんは単位年あたりの 入院率が狭心症、高血圧、糖尿病患者さんに比べて明らかに高く、QOLや医療経済という点からも対策が急務とされている。  心不全は血液を受け取り、送り出すという心臓のポンプ機能が低下することによって生じる全身の症状と状態を指したもので単一の病気を表したものではない。心不全を起こす原因疾患としては心筋梗塞、弁膜症、心筋症、先天性心疾患、不整脈などの心臓自体の疾患以外に、高血圧が大きな原因として考えられている。高血圧は心臓に負荷をかけ続けることにより心肥大を招くが、さらに負荷が続くと病的な心肥大、心臓線維化などの心臓の異常な構造変化をもたらすことになる。また高血圧は心筋梗塞の主要なリスクファクターでもあり、これも含めた長年の高血圧により生じる心臓構造変化は心臓の機能低下を招き、最終的に心不全の発症につながると考えられている。心不全は心臓機能異常以外に心臓をとりまく要因(神経やホルモン活性化、貧血、腎機能異常、免疫・ 代謝異常、血管機能異常など)が合わさって発症すると考えられている。心不全にならないようにするには心筋梗塞を含めた心疾患のリスクファクターやこのような心臓以外の要因をコントロールすることも大事である。  心不全は心臓機能低下に対する代償機構が破たんすることで顕在化するが、まず心不全と診断されるためにはその症状に気づくことが重要である。症状は心臓から全身に血液を送り出すポンプとしての機能低下によるもの、心臓に血液が返ってくる機能の障害により全身や肺に血液が貯留することによる症状がある。心不全を疑うような症状に気づいた場合は医療機関を受診して、診察を 受け、必要に応じ種々の検査を受けられることが大事である。検査では血液検査によるBNP測定がスクリーニングに用いられ、また心臓超音波検査は心臓の大きさや動き、構造異常、血流や機能の評価を非侵襲的に行えることから心不全の診断には欠かすことのできない検査となっている。  心不全と診断され、薬物療法などの治療が行われるが、薬物療法として現在主流となっているのは心臓の負荷を減らし、心臓をがんばらせすぎない薬剤であり、血管拡張薬、利尿剤、β遮断薬などが用いられる。心不全の加療中に状態が悪化して入院や救急受診が必要となる原因のかなりの 部分に塩分・水分の摂取過多、服薬の中断、過労やストレスなど日常生活の管理の問題が関与している。また感染も心不全の増悪因子とされており、風邪をこじらせない、予防接種を受けることなども心不全患者さんの悪化予防には重要なことである。「心不全に克つ」ためには、心不全に気づき、心不全の診断を受ける、心不全の治療を継続し心不全の悪化因子をできるだけ避けることが大事なことと考える。

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