テーマ | サルコペニアと生活習慣病ぐ |
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講 師 | 大阪大学大学院医学系研究科 老年・腎臓内科学 講師 杉本 研 先生 |
開催日時 | 2015年(H27年)9月9日 |
超高齢社会をすでに迎えている日本では、健康寿命延伸のため、要介護への移行を防止することが急務となっています。高齢者において増加する衰弱(フレイル)、転倒・骨折は、合わせて約25%と、要介護の原因のトップとなっています。転倒は内的要因(病気を含む身体的要因)と外的要因(生活環境など)により生じますが、内的要因である筋力低下やバランス障害は、転倒リスクの上昇に大きく関連するだけでなく、予後にも直接関係することが数多く報告されています。そのため、転倒予防には筋力や身体機能を評価することが大変重要となります。筋力や身体機能の低下は、 これまでは「年のせい」と軽視されていましたが、サルコペニアという概念が登場し、その評価の重要性や予後との関連、介入による要介護への移行防止などが注目されるようになりました。サルコペニアは、握力または歩行速度の低下と筋量減少により判定しますが、これを元にした日本人のサルコペニアの頻度は10-15%程度です。前要介護状態を指す「フレイル」や、整形外科領域で話題の「ロコモーティブシンドローム」とも関係しています。サルコペニアは生活習慣病、特に糖尿病でより早期にみられ、血糖コントロールが悪いことと関連することが知れられています。糖尿病では肥満が多く、心血管病が発症しやすいですが、肥満とサルコペニアが共存する「サルコペニア肥満」は、より予後を悪化させる病態と考えられるので、糖尿病や肥満の治療だけでなく、サルコペニア肥満を見つけて適切に対応することが必要です。海外ではすでに、身体機能や予後を考慮して高齢者糖尿病の治療目標を設定するガイドラインが取り入れられており、日本でも糖尿病学会と老年医学会が共同し、高齢者糖尿病の治療ガイドラインを現在作成中です。サルコペニアの治療の基本は、運動と栄養摂取です。運動はウォーキングができれば良いですが、サルコペニアの予防には1日に7,000?8,000歩の歩行が必要ですので、できない場合はレジスタンス運動やバランス運動も効果的です。栄養面では、高齢になると低下しやすいタンパク質やビタミンDの摂取が効果的です。運動と栄養摂取を適切に併用すると筋量、筋力が増えることが報告されていますが、それに よって予後が改善するかはまだ明らかではありません。心不全では、筋タンパクが分解されやすく筋の修復能も低下するため、サルコペニアが進みやすいこともわかっており、その防止にはリハビリによる運動がやはり重要ですが、心不全治療薬のACE阻害薬にもその防止の可能性があることも報告されていますので、運動と栄養摂取以外の有効な治療法の確立のため、今後の研究が期待されます。 医療の進歩により、心臓病や脳卒中により直接死亡する人が減っている一方で、健康寿命が改善しないことが大きな問題となっています。病気を抱えていても、心身とも健康でいるためには、病気の治療とともにサルコペニア予防や治療にも目を向けることが大切です。日々の運動習慣と適切な栄養摂取を是非心がけてみてください。