テーマ | サイレントキラー大動脈瘤 : 成因から最先端治療まで |
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講 師 | 大阪警察病院 副院長 高橋 俊樹 先生 |
開催日時 | 20115年(H27年)1月9日 |
大動脈解離・大動脈瘤は増加傾向にあり、2013年の厚生労働省人口動態統計では第10位の死亡主因疾患となっています。とくに大動脈瘤は破裂するまで無症状に経過するものが多く、サイレントキラーとも言われています。大動脈瘤の成因は大動脈壁の脆弱性にあり、ベーチェット病や高安動脈炎などの炎症性疾患、マルファン症候群などの先天性結合織異常、高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの疫学的因子、遺伝的要因、炎症性サイトカイン( INF-γ、Interleukin)や細胞外マトリックス分解に関する酵素(Matrix metalloproteinase などとの関連性が指摘されています。中でも喫煙との関連性は高く、喫煙は瘤拡大の速度を20~25%早め、大動脈瘤破裂のriskがタバコで6.5倍、葉巻で6.7倍、手巻きタバコで25.0倍に増大する、とする報告もあります。大動脈瘤の症状としては、胸部大動脈瘤では嗄声、むせ、嚥下困難、血痰、顔のむくみ、腹部大動脈瘤では腹部膨満感や便秘、などがありますが、瘤内の血栓形成にともない凝固異常や瘤より末梢の血栓塞栓症をともなう場合もあります。大動脈瘤の手術適応は、破裂のriskが手術のriskを上回ってくる場合考慮されますが、一般に最大短径が胸部や胸腹部大動脈瘤では5.5~6cm以上、腹部大動脈瘤では5cm以上、その他、半年で5mm以上の増大、嚢状瘤、などがその判断基準とされています。2007年以降、本邦でも企業製造のステントグラフトが認可され、下行大動脈瘤、腹部大動脈瘤を中心にその手術症例数は年々増加傾向にあり、弓部大動脈瘤や一部の施設では胸腹部大動脈瘤にも適応が広がってきています。10施設、2150例の腹部大動脈瘤の外科的治療に関する国立病院機構の多施設研究でも、ステントグラフト内挿術の開腹直達手術に対する低侵襲性とそん色のない良好な遠隔成績が報告されています。
一方、大動脈解離は発症急性期には胸背部痛や腹痛や腰痛などの激痛を生じることが多く、大動脈破裂以外にも偽腔の圧迫やフラップによる主要分枝の閉塞により、脳梗塞、心筋梗塞、腎臓梗塞や腸管梗塞などの重篤な臓器虚血を生じることもあります。とくに上行大動脈に解離を発生するStanford A型では、心タンポナーデや大動脈弁閉鎖不全症、急性心筋梗塞などの致死的合併症を発生しやすく、緊急手術の対象となります。また、大動脈解離は、Stanford B型慢性期にも偽腔の拡大や血栓形成により、腸管虚血や腎不全などの臓器潅流障害を生じることがあり、外科的治療が必要となりますが、最近では同病態に対するステントグラフト内挿術の有効性も実証されてきています。
今回の“健康講座”では、大動脈瘤と大動脈解離の成因、症状、診断、治療、予後について、日本循環器病学会のガイドラインに沿って概説しました。ステントグラフト治療は、大動脈解離も含めて今後一層の発展が期待されます。