テーマ | 弁膜症に対する最新のカテーテル治療 |
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講 師 | 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 特任助教 中村 大輔先生 |
開催日時 | 2023年(R5年)1月20日 |
従来、心臓弁膜症の治療は薬物療法のほかに外科的手術(弁置換,弁形成)がゴールドスタンダードでありました。近年、カテーテルインターベンションの技術・進歩が著しく、より低侵襲で治療を行うことが可能になってきました。特に大動脈弁狭窄症に対するTAVI(経皮的大動脈弁留置術)、僧帽弁閉鎖不全症に対するMitraClip (経皮的僧帽弁接合不全修復術)について紹介します。 TAVIは、大腿動脈、左心室心尖部、鎖骨下動脈、大動脈などからアプローチし、カテーテルを介して大動脈弁に人工弁を植込む治療で、開心術のリスクが高い大動脈弁狭窄症患者に対する低侵襲治療として適応があります。この疾患に対する標準的治療は大動脈弁置換術で、これは胸骨正中切開の もと人工心肺装置を使用し、心停止の状態で大動脈弁を人工弁に置換するものです。しかし、合併症や年齢などの点で、通常の大動脈弁置換術の適応がハイリスクと判断され、治療を受けられない患者さんが決して少なくないことが指摘されています。こうした背景から登場したのがTAVIで、日本では2013年10月に認可がなされました。大動脈弁置換術がハイリスクな患者さんにおいて、大動脈弁置換術と同等もしくはそれ以上に良好な術後早期成績をあげています。また、手術による患者さんへの身体的負担 (手術侵襲) が少ないことから、患者さんの術後の生活の質 (QOL) を維持できる可能性が高い治療としても知られています。 MitraClipは、経カテーテル的に僧帽弁閉鎖不全症:MRを治療する手術であり、僧帽弁外科手術の術式をコンセプトに開発が行われました。大腿静脈穿刺、心房中隔穿刺にて、右房から左房、左房から僧帽弁にアプローチを行います。経食道心エコーガイドで心拍動下にて左室から僧帽弁をすくい 上げ、クリップにて前尖・後尖を把持する事で、弁尖の接合を作りMRの制御を行います。2010年に行われたEVEREST試験ではMR制御においては外科手術が優れていたが、心不全症状のNYHAは同等、輸血等の安全性においてはマイトラクリップ治療の発生率が低い傾向が見られました。2018年にはMR患者に対して、薬物療法と薬物療法 + MitraClipを比較す COAPT試験が発表され、有意差を持 って、心不全入院を47 %抑制、全死亡を38 %抑制した結果が報告されました。日本国内においては、2018年4月から保険償還が行われ、2022年12月時点で、約120施設の認定施設、累積6000例を超える症例が行われています。全世界では、2003年の初回症例から15万例を超える症例数を重ねています。2020年には、添付文書記載改訂が行われ、LVEF30%から20 %に変更、より外科手術困難な低左 心機能症例にも治療適応が拡大されています。 今後も弁膜症や心不全に対するカテーテル治療は発展していく分野です。