テーマ | クスリの効き方の個人差についてく |
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講 師 | 大阪大学薬学研究科 臨床薬効解析学分野 教授 藤尾 慈 先生 |
開催日時 | 2016年(H28年)7月6日 |
すべての患者さんに有効なクスリもありませんし、全く副作用のないクスリもありません。その理由の一つは、クスリの効き方の個人差にあると考えられています。 クスリの効き方の個人差は、外的要因と内的要因に分けて理解されています(表1)。外的要因とは患者さんの環境要因のことで変更可能な要因であり、一方、内的要因とは患者さんの背景や病態に関連した要因ということになります。 外的要因の多くは、広い意味での「のみ合わせ」にあたります。クスリののみ合わせには色々な機序がありますが、クスリが肝臓や小腸で代謝される過程でよくおこります。クスリは、 もともと個体にとっては異物であり、体の外へ排泄される運命にあります。代謝というのは、クスリを体の外に排泄する前に、より排泄しやすい形に変化させる過程です。代謝の過程でおこる「のみ合わせ」は、一つのクスリが代謝の能力を下げるために他のクスリが体の中とどまりやすくなる場合(阻害)と、一つのクスリが代謝の能力を上げるために他のクスリが早く代謝されてしまう場合(誘導)に分けて理解されています。グレープフルーツジュースを飲むとカルシウム拮抗薬に分類される降圧薬が効きすぎるというのは前者にあたります。 近年、内的要因の中でも遺伝的要因が注目を浴びています。例えば、循環器の領域では、 ワルファリンの効き方に関係する遺伝的な要因がよく研究されてきました。具体的には、ワルファリンの必要量が、ワルファリンを代謝する酵素(CYP2C9)の遺伝子の「型」とワルファリンが作用する標的分子(VKORC1)の遺伝子の「型」とに相関することが知られるようになり、 遺伝子の「型」を考慮することにより、個人にとって最適な投与量が予測できるのではないかと期待されています。そのことによりどの程度便利になるかあるいは安全になるかということに関しては、疑問視する向きもありますが、患者さんに納得してクスリを内服してもらうためには重要な情報かもしれません。